なぜ浮かび、なぜ落ちるか

プロペラが回れば重いものが飛べる、は誤りである。揚力は空気を押した反作用で、その仕事は重量があるあいだ続く。積載を足すと、同じ電池で飛べる距離は落ちる。

揚力は何が払うか

飛行機にかかる力は、重さに向かう揚力と、進行を妨げる抗力と、抗力に向かう推力に分けて考えるのが普通である。固定翼では、揚力の大半は翼が空気の中を進むことで出る。定常な水平飛行では、推力が打ち消すのは重さそのものではなく抗力だ。抗力は重さより小さいので、巡航はエネルギー的に安い。マルチコプタには、その意味での翼が無い。ロータが回転する翼であり、上向きの力は空気を下へ加速した反作用だ。推力の向きを傾けると水平に進み、鉛直成分が重さを支え続ける。だから前進中の推力の合計は、重さより大きくなる。

ホバリングは、その反作用を払う仕事をしている。運動量の考え方を言葉にすると、推力は空気へ与えた下向き運動量の割合で、出力はその推力に、空気へ与えた速さを掛けたものに近い。ロータの面積が同じなら、重い機体はより多くの空気を押すか、より速く押す。速く押すほうが高い。後流のエネルギーは速さの二乗で増え、推力は速さと空気の量の積でしか増えないからだ。結果として、ホバリングの出力は重さより速く増える。面積を広げれば同じ推力を安い速さで買えるが、それは別の機体であり、音もパッドも変わる。

ホバリングと風

ホバリングが、機体が出し得る最大出力とは限らない。急な上昇や速いダッシュのほうが高いことがある。適度な前進は、ホバリングより出力が低いことが多い。ロータが新しい空気に出会い、誘導の費用が下がるからだ。そこから速くすると、機体の抗力と、推力を傾けた分が再び効いてくる。出力と対気速度の関係は、坂ではなく谷になりやすい。ホバリングが壊すのは航続のほうである。航続はエネルギーあたりの距離であり、その場に浮いているあいだ距離はゼロのままメータだけが進む。玄関の上での待機は、安い休止ではない。進まない飛行だから、計画では待ち時間を距離に換算して見ろ。

風は地図の上の邪魔ではない。機体が飛ぶのは対気速度で、任務が要るのは対地速度だ。向かい風では同じ地面を進むのに分が伸びるか、抗力の高い速度まで対気速度を上げることになる。行きの追い風は、帰りの向かい風になりやすい。風の中で位置を保つのも仕事で、空気に対する仕事をしている。平均風と突風は別だ。突風は、制御が直すための推力と姿勢の余裕を要求する。平均のホバリングがすでに推力のほとんどを使っているなら、直す分が残らず、実用の意味では操縦できない。余裕は装飾ではなく、風のある日の揚力の一部だ。

積載が航続を食う

質量を足すと、ホバリングに要る推力が一緒に増える。ロータ面積が固定なら、出力は推力より速く増えるので、積載の少しの増加が分を大きく削ることがある。電池のエネルギーは、電池を足さない限り決まっている。足した電池も持ち上げる質量だ。あるところから先は、電池を増やしても有用な航続は増えず、重さが増える。貨物と電池は同じ体積を奪い合い、構造も両方を抱えて大きくなる。だから航続と積載を独立した二つの数字として出すカタログは、未完成である。一つのトレードであり、風と予備と劣化した電池で、そのトレードはまた動く。

貯蔵の密度が、経路より先に天井を決める。いまのリチウムイオンのパックは、宣伝のセルではなくパックとして、キログラムあたり数百ワット時の桁で考えるのが予備設計の習慣だ。正確な値は化学と、構造や冷却や保護をどこまで数えるかで動く。液体燃料の化学エネルギーは、キログラムあたり十キロワット時の桁だ。小型エンジンはその多くを熱として捨て、質量と振動と故障を連れてくる。残った有用分でも、長い航続が電池のマルチコプタにならない理由になる。電池が選ばれるのは、駆動が単純で制御が速く、任務が短いからだ。密度が高いからではない。水素はキログラムあたりの化学では密に見え、タンクでその利を失う。どれも電池を笑う理由ではない。一機にトラックを期待するのをやめる理由だ。積載を大きく増やす話は、ここから外れやすい。

回っていれば飛べる、ではない

回転そのものに、重力を消す性質は無い。羽根が推力を出すのは空気を加速するからで、その推力には天井がある。直径、回転数、翼面積、モータのトルク、電圧が崩れずに電池が出せる電力だ。設計者は推力と重さを等しくしてホバリングしない。傾け、上昇し、突風を拒む余裕を重さの上に残す。台上で一秒出た推力は、任務のあいだ保持できる推力ではない。同じ電流が巻線を熱し、パックの電圧を落とす。プロペラを大きくすると、同じ出力で推力は上がり、同時に騒音と翼端の速さと、必要なパッドが変わる。十分な回転が重力を帳消しにする、という余り技は無い。

重力は連続で、エネルギー収支は地面を離れているあいだ中ずっと動いている。制御も同じだ。飛行スタックは推定を更新し、姿勢とレートを閉じ、推力の配分が飽和すればそれ以上は出ない。飽和のそばで飛んでいる機体は、カタログ上は浮いていても、風の補正を頼まれた瞬間に余裕が終わる。私は、重い荷物の話を聞いたら、先にディスク面積と推力の余裕と、分あたりのエネルギーを聞けと言う。羽根が回る動画は、その三つを満たした証拠ではない。満たさない計画は、飛ばす前に落とせ。映像で納得せなさい。